東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1538号 判決 1958年3月05日
控訴人 沖山武躬
被控訴人 中村たか子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人訴訟代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の申立を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において本案前の主張を撤回すると述べたほかは、いずれも原判決事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。
被控訴人は、公示送達の方法による適式の呼出を受けながら当審において最初になすべき昭和三十三年二月十九日午前十時の本件口頭弁論期日に出頭しない。
理由
控訴人が東京地方裁判所に申請して昭和二十八年十二月五日被控訴人主張のような仮処分決定を受けたこと、右仮処分については本案訴訟が提起されていなかつたので、右仮処分裁判所は被控訴人の申立により昭和二十九年五月二十日控訴人に対し命令送達の日から十四日内に本案の訴を提起すべきことを命じ、右命令は同月二十九日控訴人に送達されたにもかかわらず控訴人は右期間を徒過したことはいずれも当事者間に争がなく、その後現在に至るまでの間に右仮処分の本案が係属したことは控訴人の主張しないところである。
控訴人は被控訴人が右起訴命令の申立に先だち昭和二十九年四月十四日右同一仮処分につき起訴命令の申立をなし同年五月十九日右申立を取下げているから重ねて同一内容の起訴命令を申立てることは一事不再理の原則上許されないと抗争するので考えて見るに、本件記録添付の東京地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第九三二一号不動産仮処分記録によれば、被控訴人は、昭和二十九年五月二十日の本件起訴命令に先だち、同年四月十四日右仮処分裁判所にこれと同一内容の起訴命令の申立をなし、同年四月二十六日控訴人に対し、命令送達の日から十四日内に本案の訴を提起すべき旨の命令があり、同命令は同年五月十四日控訴人に送達されたところ、被控訴人は、同月十九日右起訴命令の申立を取下げ、更に即日前同一内容の起訴命令の申立をなし、これに基き同月二十日本件起訴命令を得たものであることが認められる。しかしながら民事事件においては一般に控訴人主張のような一事不再理の原則の厳格な適用はなく、申立取下後もたとえ同一内容の申立であつても法律上利益の存する限り重ねて申立をなすことが許されている。本件においては、前記のように、さきに被控訴人のなした起訴命令の申立は取下げられ、仮処分は本案訴訟の係属しないままの状態で放置されているのであるから、被控訴人は更に起訴命令の申立をする法律上の利益があり、さきに起訴命令を申立てながら自らこれを取下げたという理由で再度の起訴命令申立を妨げられるべきではないので、控訴人の右主張は採用しない。
以上説示するところにより、被控訴人の本件申立は理由があり、これを認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条の規定により本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤直一 坂本謁夫 小沢文雄)